
我国の近代化に貢献する重要な実業家の一人に岩崎弥太郎がいます。後に三菱を創設し、従業員教育施設として三菱商業学校を設立します。全体に明治という時代には近代化を推し進めるための人材の養成から企業もその一部を請け負います。理工科学・法律・商業経済すべて人材の教育から始めなければなりませんでした。現在の後進国と同じ状況下列強の弾圧のなかで、なぜ日本が強大な国際競争力を、短期間のうちに付けていくことが出来たのかは現在も歴史研究の課題ではありますが、「教育」という断面から覗けば案外分かりやすい一つの答えが用意されているような気もします。
岩崎の話に戻りますと、彼は後に自分が若いときに犯罪に手を染めてしまったことを著述の中で告白するそうです。それは、自分が商業で身を立てるために勉学している青年時、図書館でどうしても必要な書籍(簿記書)を盗んでしまったということだそうです。身を建て名が揚がり、岩崎は明治中期「三菱商業学校」という商科の専門員養成学校を作ることは最初に述べました。その理由は先にあげたスタッフの養成と、もうひとつ、「貧乏がゆえに勉学希望の若者に書籍を盗ませるような悲しいことはさせたくない」と、三菱商業学校の教科書は学外者にも広く利用してもらえるよう大変廉価に頒布したそうです。その教科書の一つが「簿記学階梯」(階梯は「はしご」ということではしごを上るようにコツコツとその最初を学ぶ入門書ということです)で、洋学堂書店の看板の一つ、我国の簿記・会計学に多大な影響を与えた本です。この本がその後の日本会計学に与えた影響は、もしかすると福沢諭吉が著した本邦人初訳の簿記書「帳合之法」よりも大きいのかもしれません。古書として市場に顔を現すその数からそう思われます。
写真は三菱商業学校の所蔵印入のブライアント・ストラットン著の商業数学書1877年(明治10年)版です。「帳合之法」の原本普通学校簿記書」と同じ著者の6年後の著作です。おそらく今の価格で10万円ほどもの対価を払い輸入されたものだと思います。見返しには丸善(=丸屋善七=今も続く明治初期からの書籍輸入商=梶井基次郎が小説の中で檸檬を書架にしのばせる書店)の書店ラベルがありました。
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